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自治体のコールセンター委託とAI活用の費用・特徴を比較|公開資料でみる契約実例と限界

COLUMN

自治体のコールセンター委託とAI活用の費用・特徴を比較|公開資料でみる契約実例と限界

代表電話の取次ぎに追われる部署ほど、「コールセンターに委託すれば楽になるのではないか」という話が一度は出ます。ところが実際に検討を始めると、判断材料が見つかりません。どこまで任せられるのか。自分の自治体の規模でいくらかかるのか。委託したところで、結局は職員へ転送されて終わるのではないか。

この3つは、事業者のサービス紹介ページを読んでもわかりません。答えが載っているのは、他の自治体が公開している募集要項・仕様書・入札結果のほうです。

本記事では、実際に公開されている調達資料と市長会見の内容をもとに、自治体のコールセンター委託でできること、契約規模の実例、そして委託しても職員に残る仕事を整理します。あわせて、AI活用・専任職員の配置とどう違うのかを業務の種類ごとに比較し、仕様書に書き込むべきチェックポイントまで扱います。

目次

1. 結論:自治体のコールセンター委託は「どこまで任せられるか」と「規模に合う費用か」で判断する

先に結論を書きます。自治体のコールセンター委託では、代表電話の交換・取次ぎから制度や給付金の案内、申込受付までを民間事業者に任せられます。政令市規模の総合案内型では5年契約の上限額で6億〜8億円、月額では約860万円(札幌市の落札額・税込)という契約規模が、公開資料から確認できます。

ただし、所管課の判断が要る用件は委託しても職員へ転送されます。奈良市は2026年2月の市長会見で、コールセンターが受ける年間約14万件のうち約7割は職員へ転送していると説明しました。閉庁時間の対応にも限界があります。

そして先進的な自治体の次期仕様書は、すでに「AI等による一次応答+有人対応」という形に移っています。委託かAIかを二者択一で選ぶのではなく、業務の種類で組み合わせるのが現実的な解になります。

手段 委託・自動化できる範囲 転送されやすい用件 契約単位と期間の目安
有人コールセンターへの委託 代表電話の交換・取次ぎ、市政全般の案内、制度・給付金の一次案内、申込受付 所管課の判断が必要な用件、個人情報に立ち入る相談 複数年(3〜5年)の業務委託契約が中心。債務負担行為が前提になる
AI電話・ボイスボット 定型的な問い合わせへの回答、担当課への振り分け、時間外の一次受付 聞き取れなかった発話、想定していない相談、複雑な制度説明 初期設定費+月額。単年度予算でも始めやすい
専任職員の配置 受付から庁内調整、判断を伴う回答まで一貫して対応 (転送ではなく、所管課との調整という形で負担が残る) 人員配置。異動・欠員・繁忙期の影響を直接受ける
AIの一次応答+有人対応 定型はAIが受け、判断が要るものだけ人へ回す 役割分担の設計から外れた用件 AIの月額+有人側の費用。対象業務を段階的に広げやすい

なお本記事は、契約規模の実例と委託の中身に絞ります。費用相場の網羅や積算方法そのものは扱いません。代表電話のDX全体をどう進めるかについては自治体の電話対応DXとは?代表電話の課題とAI・有人連携による解決策で解説しています。

2. 自治体のコールセンター委託とは|委託できる業務の4類型と委託形態

委託できる業務の4類型と委託形態

自治体のコールセンター委託とは、代表電話の取次ぎや制度案内などの電話対応業務を、業務委託契約により民間事業者のオペレーターに任せることです。

ひとくちに委託といっても、対象とする業務の範囲によって契約の形も規模も変わります。まず4つの類型に分けて整理します。

2-1. 委託できる業務の4類型

  • 総合案内型:市政全般の問い合わせを一手に引き受ける形です。札幌市、仙台市、高知市などが該当し、朝8時から夜21時まで年中無休という運営時間が多く見られます。
  • 制度・給付金専用型:国民健康保険、予防接種、マイナンバーなど、特定の制度に絞った期間限定の窓口です。
  • 臨時スポット型:給付金や感染症対応など、数か月単位で立ち上げるものです。横浜市が令和5年度に設置した新型コロナウイルス感染症コールセンターは、6か月・24時間対応という条件で発注されています。
  • 代表電話交換型:代表電話の交換・取次ぎそのものを委託する形です。町田市は2011年に代表電話とコールセンターを統合しています。

この時点で押さえておきたいのは、どの類型を選んでも、制度の判断や個人情報に立ち入る相談は所管課の対応として残るという点です。ここは委託の効果を見積もるときに最も外しやすいところなので、4章で改めて詳しく扱います。

2-2. 業務委託と労働者派遣の違い|偽装請負にしないための線引き

委託先のオペレーターが庁舎内に入る形(オンサイト型)を検討する場合、契約形態の整理は避けて通れません。

総務省の「地方公共団体の窓口業務における適正な民間委託に関するガイドライン」では、職員が受託者の労働者を指揮命令の下で働かせた場合、契約の名称が業務委託であっても労働者派遣に該当し、いわゆる偽装請負となることが示されています。この場合、自治体側も是正指導・勧告・公表の対象となり得ます。

実務上の線引きは、次のように整理できます。

  • 職員から受託者のオペレーターへ直接指示を出さない
  • 連絡は受託者の業務責任者に対して行い、契約内容の確認と履行の請求にとどめる
  • 「こう答えたほうが早い」といった善意の助言も、直接行えば同じ問題になる
  • 庁舎内に受託者の要員を置くオンサイト型では、席の配置や執務空間の区分にも注意する

なお、このガイドラインは窓口業務を対象としたものです。ただし指揮命令に関する考え方そのものは、電話対応業務の委託にも同様に当てはまります。

3. 自治体のコールセンター委託の費用|公開資料でみる契約規模と金額の決まり方

公開資料でみる契約規模と費用

費用感を知るうえで最も確かな材料は、他の自治体が公開している調達資料です。政令市・中核市規模の総合案内型では5年契約の上限額で6億〜8億円、月額では約860万円(札幌市・落札額)。制度別や臨時のコールセンターは、数百万円から1億円超まで業務量によって大きく変わります。

3-1. 契約規模の実例

以下はすべて、各自治体が公開している募集要項・説明書・入札結果に記載された金額です。

自治体 業務範囲 期間 金額 金額の種類 年換算(参考) 出典
仙台市 総合コールセンターの構築・運用 運用63か月 586,300千円 予定価格上限 約1億1,168万円 募集要項
高知市 コールセンター運営 5年 603,108千円 事業費限度額 約1億2,062万円 公募型プロポーザル実施要領
町田市 代表電話およびイベントダイヤルの運営 2026年4月〜2031年3月 790,521,000円 契約上限 約1億5,810万円 公募型プロポーザル説明書
札幌市 コールセンター運営 2024年12月〜2029年11月 月額8,639,400円(税込) 落札額 約1億367万円 公募型企画競争
大阪府 府民お問合せセンターの整備・運営 準備約8か月+運用5年 1,357,658,000円 契約上限 仕様書
横浜市 新型コロナウイルス感染症コールセンター(24時間・想定入電約45,000件/月) 6か月 121,929,600円(税抜) 落札額 入札結果・仕様書
千葉市 高齢者予防接種コールセンターの運営 約半年 21,230,000円 落札額 入札結果
神戸市 生成AI自動音声応答を活用した税務部の電話問合せ改善 2027年3月まで 12,760,000円 契約額 公募情報

この表を読むときの注意点を先に書いておきます。年換算は編集部が契約期間で単純に割った参考値です。構築費や準備期間を含む契約と、運用のみの契約が混在しており、税込・税抜も資料によって異なります。横並びで比較する用途には向きません。大阪府は準備期間を含む契約であるため、また6か月前後の臨時契約は年単位に引き延ばす意味が薄いため、いずれも年換算欄は「―」としています。

もうひとつ。札幌市は2019年の調達時にも入札説明書で上限月額を示していますが、2024年の落札月額はこれを上回っています。ただし一方は上限額、もう一方は落札額であり、金額の性質が違います。上昇率として計算できる数字ではありません。

3-2. 金額の決まり方

総合案内型の委託費は、おおまかに「席数(オペレーターの人数)×対応時間帯×契約期間」で決まります。

札幌市の仕様書は、この構造がよくわかる書き方をしています。業務日は年中無休、業務時間は8時から21時。そのうえで、運営時間における最低人員配置として、SV(スーパーバイザー)1席、LD(リーダー)1席、OP(オペレーター)1席、および英語・中国語・韓国語の外国語対応オペレーター各1席の確保を求めています。人員配置については、平均通話時間や後処理時間、研修時間などを考慮してオペレーター1人あたりの対応可能件数を設定し、繁閑期や時間帯に応じて最適化することとされています。

つまり、運営時間を延ばすほど、また対応チャネルや言語を増やすほど、確保すべき席が増えて費用が上がります。

臨時型はこれとは積算の考え方が違い、想定入電件数と1件あたりの処理時間から必要な席数を割り出します。横浜市の感染症コールセンターの仕様書は、想定入電を月約45,000件、1件あたり約15分と明示していました。

さらに、金額だけで決まらない仕組みも入っています。大阪府の府民お問合せセンターの仕様書では、サービス要求水準の達成度に応じて委託料の支払率が85%から100%の範囲で変動します。安ければよいという発注ではなく、品質指標とセットで契約が組まれているということです。

民間向けの参考値としては、コールセンター1席あたり月20万〜50万円程度という価格帯が比較サイトなどで示されています。1件あたりの単価で示されることもありますが、こちらは民間向け比較サイトの参考値であり、自治体の調達実例とは前提が異なります。

4. 委託の効果と、委託しても職員に残る仕事

委託しても職員に残る仕事

委託の効果は、導入した自治体の公表値である程度つかめます。ただし検討段階で本当に知りたいのは、その裏側にある「委託しても残るもの」のほうです。この章は後半に比重を置いて書きます。

4-1. 委託で得られる効果

コールセンター側で用件が完結した割合として、自治体職員向けメディアの取材記事では、鹿児島市が約94%、大阪市が約89%、高知市が約85%、倉敷市が約82%という数値が紹介されています。

もう少し踏み込んだ数字としては、札幌市の例があります。総務省が2005年に公表した地方公共団体の行政改革の取組資料によれば、コールセンター内で回答できた比率は開設後に97%から99%へ上がり、市民満足度は10点満点で9.5、各課への問い合わせは月2,000件から200件に減ったとされています。

1件あたり約560円のコスト差があり、年8万件で約4,500万円の効率化になるという試算も示されていました。ただしこれは約20年前の資料であり、金額は当時の市の試算です。

ここで注意が必要なのは、完結率の定義です。転送やコールバックを含めて数えるかどうかは自治体ごとに異なります。たとえば大阪府の仕様書は、転送やコールバックを一次回答に含めない定義を採ったうえで、一次回答率92%以上を要求しています。他市の数値を自分の自治体の目標値としてそのまま使うと、意味が変わってしまいます。

4-2. 委託しても職員に残る5つの作業

委託で電話が「なくなる」わけではありません。公開資料をたどると、残る仕事の中身はかなりはっきりしています。

残る仕事1|所管課の判断が要る用件は、結局転送される

横浜市が2005年に総務省へ提出した資料では、所管課の判断を要する問合せや個人情報の細かい内容は所管課でしか取り扱えないため、結局転送になってしまい、中途半端な対応になってしまうことがあった、という趣旨の課題が指摘されています。

そして2026年2月の奈良市の市長会見では、コールセンターが受ける年間約14万件のうち、約3割は回答できているものの、約7割は職員へ転送して対応していると説明されました。20年の間隔がある2つの資料が、同じ構造を指しています。委託の範囲設計を誤ると、転送の手間だけが残ります。

残る仕事2|閉庁時間は、受けられても用件が終わらない

横浜市の同じ資料では、コールセンターが対応しても市役所が閉まっているため用件を済ませられない、という限界も指摘されています。

時間外の受付を増やすこと自体は可能ですが、翌開庁日に所管課の作業として積み上がる分は残ります。

残る仕事3|FAQ・Q&A集の保守と、応答記録の確認

コールセンターが回答できる範囲は、渡してあるFAQの精度で決まります。横浜市の資料でも、札幌市の体制図でも、Q&A集の作成・更新と応答記録のチェックは所管課側の作業として位置づけられています。

ここを軽く見積もると、開設直後に完結率が伸びない原因になります。

残る仕事4|所管課の費用負担と、庁内の合意形成

横浜市の資料には、「所管課にも応分の費用負担をしてもらう仕組みづくりが必要」「全庁的な費用対効果が得られないとコンセンサスが得られない」という趣旨の記述があります。

委託費を一括で総務系の部署が負担する形にすると、恩恵を受ける所管課との間で費用の帰属が合わなくなります。

残る仕事5|契約の硬直性と、事業者切替時の引継ぎ

総合案内型は5年程度の長期継続契約が多く、途中で範囲を見直しにくい構造があります。事業者を切り替える際の引継ぎも自治体側の作業です。

加えて、人件費の上昇は委託料に跳ね返ります。大阪府の仕様書は「人件費の高騰する時代において、数多くのオペレータを使ってセンターを運営することは非効率的」という認識を明記しています。

委託先の監督義務も自治体側に残る

個人情報保護委員会の「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(行政機関等編)」では、個人情報の取扱いを委託する場合、委託先の選定基準を定めること、再委託や監査に関する条項を契約に盛り込むこと、定期的に監査を行うことなどが求められています。

監督が不十分な状態で委託先が不適切な取扱いをした場合、委託元である自治体の法違反と判断され得ます。委託は、責任ごと外に出す仕組みではありません。

5. 先進自治体の次期仕様書はすでに「AI一次応答+有人」になっている(大阪府・奈良市)

次期仕様書はAI一次応答と有人対応

4章で見た限界に対して、発注する側の自治体がどう手を打とうとしているのか。それは調達資料を読むとはっきりします。ここでは大阪府と奈良市の2つを取り上げます。

大阪府 府民お問合せセンターの次期仕様書(2026年4月)

大阪府の代表電話への着信は、令和4年度の356,339件から令和6年度は282,529件へと減少傾向にあります。それでも年間約30万件近くがあり、現状ではそのすべてにオペレーターが対応しています。

次期の仕様書は、この状態を前提に基本方針を切り替えています。一次応答は原則として自動音声応答システム(IVR等)やAIを活用し、基本的な問合せは自動化する。

そのうえで、人でしか対応できない高齢者・障がい者などデジタル技術への対応が困難な方や、複雑かつ高度な内容についてのみオペレーターが対応する、という組み立てです。

同時に、「デジタル弱者である障がい者や高齢者が取りこぼされることのないよう、そのフォローについては十分に行う」ことも要件に書き込まれています。自動化と取りこぼし防止が、同じ文書の中でセットになっているところが重要です。

サービス水準としては、一次回答率92%以上、設定時間(10秒)以内の応答率90%以上、応対満足度10点満点で8.5以上といった指標が置かれ、電話の削減率については5年間で2割減という目標が示されています。これは実績ではなく、これから達成すべき目標値です。

奈良市|年間約14万件・約7割転送という現状への対応

奈良市は2026年2月の市長会見で、コールセンターが受ける年間約14万件のうち約7割を職員へ転送している現状を示したうえで、クラウドPBX(Zoom Phone)とコールセンターによる刷新を打ち出しました。

AIによる自動応答機能の追加は2026年秋以降が予定されています。

会見で示された電話関連コストの試算は、年間約7.86億円です。ただしこの数字はそのまま引用すると誤解を招きます。内訳のうち人件費約7.2億円は、コールセンター白書の1件あたり単価785円を全庁の電話件数917,400件に当てはめた推計であり、実際の支出額ではありません。また、コールセンターが受ける14万件と、全庁の電話917,400件は母数が違います。混同しないよう注意が必要です。

この2例から読み取れること

いずれの自治体も、委託そのものをやめる方向には進んでいません。委託の中身を「AIによる一次応答+有人対応」に組み替えています。規模の大きい自治体ほど、全件を人が受ける前提が維持しにくくなっている、という見方ができます。

6. AI活用とコールセンター委託は何が違うか|費用構造・完結率・限界

AI活用と委託の違い

この章では、委託との差分だけを扱います。AI電話そのものの仕組みは自治体のAI電話対応とは?仕組みと有人連携のポイントを解説、ベンダーの選び方は自治体向けボイスボットとは?導入メリットと失敗しない選び方を解説、自動応答の種類の整理は自治体の電話自動応答とは?5つの種類と費用相場・失敗しない選び方の各記事で解説しています。

6-1. 費用構造の違い

有人委託の費用は、席数×対応時間帯の固定費が土台になります。入電がない時間帯でも席は確保されているため、費用は発生します。そこに応対件数に応じた変動費が乗る形です。

AIの費用は、初期設定費と月額が中心で、件数の増減が人件費に直結しにくい構造になっています。この差は、入電が少ない自治体ほど効いてきます。

実例があります。群馬県長野原町は人口約5,000人、代表電話の入電は月約1,000件、総務課は9名という規模です。同町はコールセンター委託の見積もりを複数社から取得しましたが、専門スタッフの人件費を前提とする委託モデルは財政規模に見合わなかったとして、AI電話を選択しました(ベンダーの事例記事における町職員の発言)。

6-2. 完結率と時間外対応の違い

公表されている実証データを並べます。

  • 高松市(市民課・実証1か月):総受電595件のうち、AIによる完結が65%、職員への取次が35%。ここでいう完結は解決率ではなく、AIで会話が終了した割合(途中の切断を含む)です。
  • 三次市(ごみ分別・実証1か月/ベンダー発表):394件を受け付け、開庁時間外の利用が49.5%、AI対応完了率74.4%、回答正答率71.5%、事実に基づかない回答の発生率2.9%。
  • 長野原町:導入から2〜3週間で636件中551件、自動振り分け率87%。これは振り分け(取次ぎ)の割合であり、回答が完結した割合ではありません。
  • 桑名市(ベンダー事例記事):総務課の電話対応が体感で1日20件程度から5件程度に。Q&Aの登録は300件以上。
  • 神戸市:税務部の電話は年間約40万件(市の公表値)。一部税目の定型的な問合せについて自動回答65%以上(試験段階・ベンダー発表)、本格導入では70%以上を目標としています。

ここでAIの完結率(65〜74%)と、4章で挙げた委託の完結率(82〜94%)を並べて優劣を判断することはできません。定義も対象業務も違うからです。読み取るべきなのは構造の違いのほうです。AIは完結率が低い代わりに、時間外の入電を拾えます(三次市では入電の49.5%が開庁時間外でした)。

一方で、事実に基づかない回答が一定の割合で発生し得ます(三次市で2.9%)。

6-3. AIの限界と、住民への配慮

音声認識の精度、誤回答、そして高齢者の戸惑いは、導入時に必ず出る論点です。

桑名市では、導入当初の2か月ほど「外部委託で人に任せればいいのではないか」「自分の言葉が正しく認識されない」といった声があったものの、その後定着したと職員が述べています。長野原町でも、デジタルに不慣れな方がAIに戸惑い、総務課につながるケースがごくまれにあるとされています。

だからこそ、大阪府の仕様書がデジタル弱者へのフォローを要件として書き込んでいることには意味があります。AIだけで完結させない設計は、発注する側の前提になっているということです。有人でのバックアップを持たない構成は、自治体の電話窓口としては成立しにくいと考えたほうが安全です。

7. 業務類型別の使い分け|有人委託・AI・専任職員・AI+有人の比較表と判断フロー

業務類型別の使い分けと判断フロー

ここまでの内容を、業務の種類ごとに整理します。表の見方は、その業務にどれだけ向いているかを◎○△で示し、理由を一言添えたものです。

業務の種類 有人委託 AI電話 専任職員 AI+有人
総合案内(市政全般) 件数が多いほど席が埋まり単価が下がる 相談の幅が広く、定型化しきれない 全庁の制度を少人数で抱えることになる 定型を切り出せば必要な席数を抑えられる
制度・給付金の専用窓口 期間限定の窓口を丸ごと置ける 質問が絞られ、シナリオを作りやすい 繁忙期だけの増員が難しい ピークをAIで受け、個別相談は人へ
臨時・スポット(数か月) 24時間や大量入電の条件でも組める 立ち上げは速いがシナリオ整備が要る 通常業務が止まる 立ち上げの速さと対応の幅を両立しやすい
代表電話の取次ぎ 交換業務ごと委託できる 振り分けは自動化と相性がよい 総務課の中断が残る 振り分けはAI、判断が要るものは人
閉庁時間・時間外 時間帯を延ばすほど費用が増える 受付を止めずに済む 体制として組みにくい 時間外はAI、開庁時は人で受ける

判断フロー:4つの問いに答える

  • 年間の入電件数はどのくらいか:席を埋められる規模かどうかを見ます。席単価型の委託では、最低1席分の固定費が空席でも発生します。
  • 定型的な問合せの比率はどのくらいか:高いほどAIによる一次応答が効きます。
  • 時間外・閉庁時間の入電比率はどのくらいか:高いなら、AIか24時間対応の委託が候補になります。
  • 単年度予算か、複数年で組めるか:5年契約の委託は債務負担行為が前提です。単年度で始めたい場合は選択肢が変わります。

規模による向き・不向き

席単価型の委託は、年間の入電が少ないと1件あたりの負担が大きくなりやすい構造です。この場合、AIによる一次応答と、必要なときだけ人につなぐ組み合わせが選択肢になります。

逆に、有人委託のほうが向くケースもはっきりしています。

複雑な制度相談が多い場合、入電件数が多く席を埋められる場合、そして24時間の有人体制が要件になっている場合です。この3つに当てはまるなら、委託を軸に据えたほうが早く安定します。

8. 委託・AI導入の仕様書に入れるチェックポイント

仕様書に入れるチェックポイント

調達の段階で決めておかないと、運用が始まってから修正できなくなる項目があります。先行する自治体の仕様書を読むと、書き込むべき論点はおおむね次の8つに整理できます。

  • KPIの定義:一次回答率、設定時間内の応答率、応対満足度、入電削減率。特に一次回答率は、転送やコールバックを含めるかどうかまで定義します。大阪府のように「含めない」と定めれば、数値の意味がぶれません。
  • 転送・エスカレーションのルール:どの用件をどの部署へ回すか、その際にどの情報を引き継ぐかを明文化します。
  • FAQ更新の責任分担:所管課が作るのか、受託者が起案して所管課が承認するのか。更新の頻度も含めて決めます。
  • 個人情報取扱特記事項:再委託の可否、監査の実施、通話録音の保存期間と削除の方法。
  • 指揮命令系統:業務責任者を経由する形にし、偽装請負に当たらない体制を明記します。
  • BCP・障害時の体制:回線障害やシステム停止時に、どの経路で電話を受けるか。
  • AI併用の余地:一次応答の自動化を認めるかどうか。認める場合は、デジタル技術への対応が困難な方へのフォロー要件をあわせて書きます。
  • 契約期間と業務量変動時の協議条項:大阪府は毎年12月に翌年度の入電目標を協議する取り決めを置いています。5年契約でも、年ごとに前提を見直せる余地を残す書き方です。

9. 小規模自治体が段階的に始める場合の選択肢(株式会社アップデートサポートのAI×有人対応)

小規模自治体の段階的な選択肢

はじめに繰り返しておきます。複雑な制度相談が多い、入電件数が多く席を埋められる、24時間の有人体制が要件になっている——この3つに当てはまる自治体では、有人のコールセンター委託を軸に据えるほうが適しています。

そのうえで、入電件数がそこまで多くない自治体が段階的に始める場合の選択肢として、株式会社アップデートサポートの自治体向けAI電話対応をご紹介します。

想定している運用

AIが一次応答を行い、用件を判断できなかった場合には聞き取れなかった旨をお伝えして再度用件をお伺いします。それでも判断が難しい場合は、当社のコールセンターへ転送するか、あらかじめ設定いただいた総務課などの担当部署へ転送する運用です。自動応答だけで完結させる設計ではありません。

当社は自社でコンタクトセンターを運営しています。東京と山口の2拠点にSVを置き、8時から21時まで年中無休で対応する体制です。シェアード型・専有型のいずれにも対応しているため、AI側だけでなく有人側もあわせてご相談いただけます。

導入は、既存の代表電話番号を活かしたまま、転送設定によって行う想定です。番号を変更する必要はありません。標準的なケースでは、ヒアリング・お見積り、設定・試験運用、本稼働という3つのステップで、約1か月での本稼働開始を想定しています。

費用と契約条件

初期費用は12万円(税抜)程度がひとつの目安です。対象業務や設定項目の数によって変動するため、詳細は個別のお見積りでのご案内となります。運用開始後は月1回の定例会を想定しており、実際の対応履歴をご報告したうえで、振り分けルールやFAQの改善点を一緒に検討します。解約をご希望の場合は、3か月前までにメールでご連絡いただく形です。

個人情報の取り扱いについては、プライバシーマーク(Pマーク)を取得しています。

導入前に自治体側でご用意いただくもの

  • 部署の一覧と、各課の直通番号(ホットライン等)
  • よくある問い合わせの内容
  • どの用件をどの部署へつなぐかという振り分けのルール

振り分けルールの細部は、打ち合わせの中で一緒に詰めていきます。なお当社の自治体向けAI電話対応は、現在、複数の自治体様へご提案を進めている段階です。

10. 自治体のコールセンター委託に関するよくある質問

Q

自治体のコールセンター委託の費用はいくらかかりますか

A

規模と対応時間帯、契約期間によって大きく変わります。公開資料で確認できる範囲では、政令市・中核市規模の総合案内型で5年契約の上限額が6億〜8億円、月額では約860万円(札幌市の落札額・税込)という実例があります。制度別や臨時のコールセンターは、数百万円から1億円超までの幅があります。相場の考え方や積算の詳細については、別途「自治体コールセンターの費用相場」の記事で扱う予定です。

Q

コールセンター委託と労働者派遣は何が違いますか

A

違いは指揮命令の所在です。業務委託では、自治体の職員が受託者のオペレーターへ直接指示を出すことはできません。指示を出せば、契約の名称にかかわらず労働者派遣に該当し、いわゆる偽装請負となり得ます。連絡は受託者の業務責任者を通じて行い、契約内容の確認と履行の請求にとどめるのが原則です。

Q

自治体のコールセンターに委託できる業務はどこまでですか

A

代表電話の交換・取次ぎ、市政全般の案内、制度や給付金の一次案内、申込の受付までは委託できます。実際の契約は、総合案内型、制度・給付金専用型、臨時スポット型、代表電話交換型のいずれかの形を取ることが多くなっています。一方で、制度の判断を伴う用件や、個人情報に立ち入る相談は所管課の対応として残ります。

Q

委託すれば閉庁時間の電話も対応できますか

A

受付そのものは可能です。ただし、市役所が閉まっている時間帯は用件が完結せず、翌開庁日に所管課の作業として残る場合があります。横浜市の資料でも同様の指摘がされています。時間外の入電が多い場合は、AIによる一次応答で用件を受け止め、開庁後に必要な分だけ人が対応する組み合わせが検討の対象になります。

Q

小規模な自治体でもコールセンター委託は成り立ちますか

A

成り立つかどうかは入電件数によります。席単価型の委託は、入電が少なくても最低1席分の固定費が発生するためです。群馬県長野原町(人口約5,000人)は複数社から委託の見積もりを取ったうえで、専門スタッフの人件費を前提とする委託モデルは財政規模に見合わないと判断し、AI電話を選択しています。段階的に始める選択肢としては、AIによる一次応答から入り、必要に応じて有人対応を組み合わせる形があります。

11. まとめ:委託の範囲と限界を見極め、業務の種類で組み合わせる

本記事の要点を整理します。

  • 委託できる範囲:代表電話の交換・取次ぎから、制度・給付金の一次案内、申込受付まで。総合案内型、制度・給付金専用型、臨時スポット型、代表電話交換型の4類型がある
  • 契約規模の実例:政令市・中核市規模の総合案内型で5年契約の上限額6億〜8億円、月額では約860万円(札幌市の落札額・税込)。臨時型は数百万円から1億円超まで業務量で変わる
  • 委託しても残る仕事:所管課の判断が要る用件の転送(奈良市は約7割)、閉庁時間の限界、FAQの保守、所管課の費用負担と庁内合意、契約の硬直性。委託先の監督義務も自治体側に残る
  • 先進自治体の方向:大阪府・奈良市の次期仕様書は、委託をやめるのではなく、AIによる一次応答と有人対応を組み合わせる形に組み替えている

どの手段を選ぶかは、業務の種類ごとに変わります。総合案内と代表電話の取次ぎでは適した手段が違い、開庁時間と時間外でも違います。7章の比較表を、自分の自治体の業務に当てはめて読み直してみてください。

検討の出発点になるのは、自分の自治体の数字です。年間の入電件数、そのうち定型的な問合せの比率、時間外の入電比率。この3つが分かれば、席を埋められる規模なのか、一次応答の自動化が効くのかを判断できます。手元にデータがない段階でも構いません。無料相談で現状の整理からご一緒します。

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