エンジニア不在でも社内システムは作れる?
イベント会社オージャストの「AIエージェント内製」に学ぶ
2026年10月30日、イベント・展示会ブース制作を手がける株式会社オージャストが、専任エンジニアを置かずにAIエージェントで営業・見積・購買などの業務システムを内製した取り組みを発表しました。市販のシステムが自社の業務に合わず、コストもかさむ。多くの中小企業が抱えるこの悩みに、同社は「自分たちでAIと作る」という答えを出しました。本記事ではその概要を整理したうえで、自社でAI活用を進める際の「作って終わりにしない」仕組みづくりのヒントを考えます。(本事例は2026年10月30日に公表されたものです。)
事例紹介:市販システムが合わず、AIで自社専用の業務基盤を内製
●どんな会社か
オージャストは2006年設立で、社内イベントの企画、展示会ブース(Reブース)の制作、映像・グラフィックなどのクリエイティブ制作、イベント用品のECやレンタルを手がける企業です。大阪と東京に本社を置き、札幌・名古屋・広島・福岡・沖縄に営業所があります。資本金は500万円と、いわゆる中小規模の会社です。
●抱えていた課題
同社の事業は多品種で、案件ごとに見積書、実施計画書、手配物リスト、施工手順書といった書類を作る必要があります。これを少人数で回すなか、情報が表計算ソフト・メール・チャットに分散し、転記の手間や手配漏れが起きていました。
かといって市販の業務システムを入れても、自社の業務フローには合いません。合わせ込むためのカスタマイズ費用もかさむ。こうした状況から、同社は2026年に方針を切り替えました。
●取り組み:AIエージェントに指示して「自分たちで作る」
方針転換の中身は、AIエージェント(Claude Codeなど)に指示を出して、自社業務に合ったシステムを自社で作るというものです。専任のエンジニアは置かず、経営者と社員が開発しています。
ここで注目したいのは、システムそのものよりも「開発の土台」への投資です。同社は、AIに守らせる社内ルールと、確認作業を自動化するツールをまず整備しました。さらに、AIの作業で失敗が起きるたびにそれをルールと自動チェックに反映し、同じ失敗を繰り返さない仕組みにしています。AIに丸投げするのではなく、AIが正しく働ける環境を人が育てている、と言い換えられます。
●内製された4つのシステム
リリースでは、主に次の4つが紹介されています。営業から購買まで、案件の流れに沿って業務が一本化されているのが特徴です。
- ✓営業・案件管理:顧客管理、見積、案件一覧、売上見込みを一元化。申込書の作成や入金督促を自動化
- ✓展示会ブース制作の管理:案件ごとの実施計画・手配物・原価と粗利を一元管理。施工規定を判定してブース部材の割り付けを提案する「施工相談AI」を搭載
- ✓購買管理アプリ:購買申請から承認、会計ソフト(freee)への登録までを自動連携。スマートフォンからも操作可能
- ✓不具合・要望の受付から修正まで:社員がアプリから送った内容をAIが整理して修正案を作成し、担当者の確認を経て反映。進捗は投稿者に自動通知
特に4つ目は、現場の社員が「困った」を送るだけで改善サイクルが回る仕組みで、システムを作った後の育て方まで設計されている点が印象的です。ただし、修正案は担当者の確認を経て反映される形になっており、最終判断は人が担っています。
●数字で見る取り組みの規模
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 改良の実績 | 2026年7月〜10月29日に、AI向けの社内ルールと自動化ツールを計1,158回改良 |
| 月別の反映件数 | 8月179件/9月373件/10月605件(29日まで)。月を追うごとに増加 |
| 開発体制 | 専任エンジニアなし。経営者と社員がAIエージェントに指示 |
| 外部提供 | AI指示書のマーケット「マキモノ」、LINEで依頼できるAI制作代行「AI代行堂」(月額5万円) |
改良の件数は月ごとに179件→373件→605件と増えており、運用が定着し、使う人・直す箇所が広がっている様子がうかがえます。さらに同社は、内製で得たノウハウの一部を外部サービスとしても公開しています。
なお、リリースの数値は同社の自己申告で、第三者の検証結果ではありません。月別件数の合計(1,157件)と総数(1,158件)にも1件のずれがあります。また、工数削減時間やコスト削減額といった効果指標、AIの誤作業が業務に与えた影響やその検証方法についての記載はありません。事例を参考にする際は、「何が実現できたか」の事実と「どれだけ効果があったか」を分けて受け止めるのがよいでしょう。
気づき・教訓:自社に応用するための4つの視点
オージャストの事例から、規模や業種を問わず応用できるポイントを4つ取り出します。
●1.「業務をツールに合わせる」から「ツールを業務に合わせる」へ
市販システムは便利な反面、自社の流れに合わなければ現場が回りません。AIエージェントによってシステム開発のハードルが下がったことで、同社のように「自社専用」を選べる会社が増えてきています。まず、今のツールに無理に合わせている業務がないかを見直してみましょう。
●2.AIに任せる前に「ルール」と「自動チェック」を整える
同社が最初に整えたのは、AIに守らせる社内ルールと確認作業の自動化でした。AIは指示次第で大量にコードを生み出せますが、品質を保つ基準がなければ運用は不安定になります。
●3.失敗は「次に活かす資産」にする
失敗のたびにルールへ反映する運用により、約4か月で1,158回の改良が積み上がりました。AI活用で失敗をゼロにするのは現実的ではありません。失敗を記録し、仕組みに戻す習慣こそが、定着の鍵になります。
●4.最終判断は人が担う
不具合の修正案は、AIが作り、担当者が確認してから反映されます。AIの出力をそのまま本番に載せない設計は、責任の所在を明確にし、誤作業のリスクを抑えるうえで有効です。
AI内製を続けるための4つの視点
この事例から読み取れるポイントを整理しました。
- 1今のツールに業務を合わせていないか、見直す
- 2ルールと自動チェックという「土台」を先に整える
- 3失敗を仕組みに戻し、同じ失敗を繰り返さない
- 4AIの出力は人が確認してから反映する
自社で始めるなら:最初の一歩チェックリスト
同社と同じことをいきなり行う必要はありません。次のような観点で、小さく始めるのが現実的です(以下は当社の見解であり、リリースの内容ではありません)。
- ✓表計算ソフト・メール・チャットに情報が散らばっている業務を1つ選ぶ
- ✓市販ツールが合わず、手作業で補っている部分を書き出す
- ✓AIに守らせる基本ルール(命名規則、確認手順など)を文書にまとめる
- ✓AIの出力を誰が・どの段階で確認するか、担当と手順を決める
- ✓まずは社内だけで使う小さな機能から試し、失敗と改善を記録する
エンジニアがいなくても、本当にAIで業務システムを作れますか?
オージャストは、専任エンジニアを置かず、経営者と社員がAIエージェントに指示して社内システムを開発したと発表しています。ただし、同社も開発の土台としてルールと自動チェックを整備しています。セキュリティやデータ管理など、自社の状況に応じた確認は別途必要になる点に留意してください。
まとめ
オージャストの事例は、AIエージェントによる内製が、エンジニアのいない会社にも現実的な選択肢になりつつあることを示しています。一方で、継続して使える仕組みにするには、ルール整備・自動チェック・人の確認といった地道な土台づくりが欠かせません。まずは自社の「表計算ソフトとメールに散らばった業務」を一つ選び、AIで一元化できないか考えてみてはいかがでしょうか。
出典



